NHK財団『インフォメーション・ヘルスAWARD』表彰式
12月13日、NHK財団主催『インフォメーションヘルス・AWARD』表彰式にお招きいただきました。
インフォメーション・ヘルスとは「情報的健康」を意味し、NHK財団様では有識者を中心に「情報的健康」を保つ取り組みを公募し、表彰されています。「食育」がモチーフとなっています。
![](https://ewf-c.com/wp-content/uploads/2024/12/IMG_20241213_135321436_HDR-1024x461.jpg)
未来に向け取り組んでいきたいと思えるユニークな視点を競うアイデア部門と、現在ある課題を解決するソリューションに重きを置いた社会実装型部門のふたつで、それぞれの受賞者が発表されました。
個人的に目に留まった企画が2つあります。
アイデア部門グランプリ「きっかけ:異なる視点との出会いをSNSで」と、社会実装部門優秀賞「Yaruki Switch Home:自宅/自分用のやる気スイッチデバイス」。
以下、それぞれについて感じたことになります(【要旨】は当日配布資料からの抜粋)。
アイデア部門グランプリ「きっかけ:異なる視点との出会いをSNSで」
【要旨】
SNS上でユーザーが自然に自分とは異なる多様な意見に触れるための「きっかけ」を提供します。人は「何を言われるか」よりも「誰が言っているか」に影響されやすいという心理の特性に注目し、利用者が好意的に思う人物の異なる意見を表示します。
異なる視点を取り込むためにまずは利用者が好意的に思う人物の意見を拾うといった点に面白さを感じました。意見ではなく人物に注目した点です。異なる意見がいきなり眼前に現れたら生理的に拒否反応を示してしまいそうですが、好意的に思う(フォローしている)人のそれであれば「んっ?」となり、いったんは立ち止まりそうですよね。直感に抗える仕組みが巧みにデザインされています。
教育学や心理学における認知プロセス、「足場掛け」(Scaffolding)が上手に作られています。あえて大向こうをねらわない安心感とも言えそうです。好感が持てるアイデアですね。
課題としては、そもそもどうやって「異なる視点に触れたい」という思いを喚起させるのか?
このアイデアはどうしてもこの前提ありきです。言ってしまえば、「教育」に付随する多くのアイデアはおしなべてここに直面せざるを得ません。伝えたい人に伝わらないジレンマをどう克服するのか。インセンティブ含め、このような思いを喚起するための運用面における「教育」が備わっていると実現化の道筋が見えてくるのかもしれません。
社会実装部門優秀賞「Yaruki Switch Home:自宅/自分用のやる気スイッチデバイス」
【要旨】
スイッチのON/OFFの意思表明によりスマホ利用に介入するデバイスです。スイッチがONの場合、設定したアプリを開くことができません。OFFの場合はそのまま使うことができます。単純に断ち切るのではないテクノロジーとの付き合い方を自分自身で探ります。
こちらの面白さはなんといってもリアルなスイッチデバイスがある点。なんともアナログ的なスイッチに心惹かれました。存在感大ありです。子どもの頃、博物館に行くといろんなスイッチやボタンがあって、とにかく押してみたかった。そんな方は多いのではないでしょうか。バスの停車ボタンも押したかったなぁと記憶が蘇り、郷愁を覚えました。
プレゼンでは「スイッチをオンオフする行為をリアルなスイッチデバイスによって可視化させることで、第三者からもわかるといった点を意識した」とありました。他人からの視線をあえて意識させることで自律性を促すといった側面があるそうです。スイッチオンがある種の決意表明と言えるのでしょうね。なんだかSF映画のようで面白いです。
要は、外部に「開かれている」点にスイッチデバイスの魅力を感じるのです。ともすればデジタル空間のみで完結しがちなコミュニケーションをあえてリアルな場に開き可視化したわけです。他の企画やソリューションとは一線を画す思考・デザインを感じました。
以前から考えていたことがあります。デジタルデバイスに関する課題を、アプリなど当該デバイス内で解決を図ろうとする取り組みをどのようにとらえるべきなのか。
デジタルデトックスの文脈で言えば、デバイスの使い過ぎをアプリに管理させるようなケースです。現にAndroid、iPhoneとも管理機能は標準搭載されていますし、そのほかにも様々なアプリが存在します。まさに「毒を持って毒を制す」です。
前述の「足場掛け」(Scaffolding)の視点から言えば、いきなりデバイスから離れるのはハードルが高いため、デバイス内で解決を試みるのは妥当なアプローチと言えるでしょう。デバイスへの依存度が高い人に対してはなおさらです。ただ、スマホ管理アプリとは言え、デバイスを利用し続けることには変わりありません。それこそ「ミイラ取りがミイラになる」可能性もあるわけです。
こんなもやもやした気持ちに応えてくれたこのアイデアは僕のなかではグランプリです。
内側に向かう閉塞したデジタル空間に、外に開かれた多孔的な視座を持ち込んだこのデザインに素晴らしさを感じました。
![](https://ewf-c.com/wp-content/uploads/2024/12/IMG_20241214_123129669-1024x730.jpg)
![](https://ewf-c.com/wp-content/uploads/2024/12/IMG_20241214_123138090_HDR-766x1024.jpg)